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ロルバーン ショップ&ギャラリー第4回企画
『土橋正の心地よく仕事をするための文具・道具』

第4回ロルバーン ギャラリーでは、ステーショナリーディレクター・土橋正さんによる「心地よく仕事をするための文具・道具」をテーマとした、スモールエキシビジョンを開催します。

集中できる空間と快適な最小限

― 今回のスモールエキシビジョンのコンセプトを教えてください。

私は仕事をする時に「心地よさ」をとても大切にしています。心地よさとは単にリラックスするということではなく、やるべき時には集中できるということなんです。仕事における心地よさは集中できているか、それを重視しています。視覚的、そして動作的にも余計なノイズがないこと。やろうと思ったその仕事に溶けこむように没入できることこそが、心地よく仕事ができるという私の中の定義です。
その上でもうひとつ心がけていることがあります。それは、限られたものだけにするということです。快適な最小限を自分の中で心がけています。必要に迫られた最小限ではなく、自分が快適に使える範囲の最小限です。
今回、スモールエキシビジョンを開催するにあたり、私が使っている愛用品を並べることで、私の人となりが浮き出てくるのではないかとも考えました。

― 土橋さんにとって、快適な最小限の文具や道具はどんなものですか?

私は一度に一つの仕事しかやらないようにしています。いろいろやってみました。たとえば、同時にいくつもことをするマルチタスクは、私の場合は能率が半分以下になってしまいました。一つの仕事だけに集中して取り組んだ方が結局、能率は上がることに気づきました。だから、その時に手にするものは、そのひとつの仕事のための専用の道具、つまり単機能であるべきだと考えたんです。たとえば、考える時は考える道具、まとめる時はまとめる道具、チェックする時はチェックする道具。
出張などでは持ち物をミニマルにして、多機能なものが重宝されるのかもしれませんが、私が仕事をする環境は事務所が中心です。毎回何を使おうか選ぶ作業が面倒くさいと思ったんです。取った瞬間に書くなら書く、チェックするならチェックする、すぐ使える道具の方が向いていると思いました。

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思考を泳がす

― 心地よく仕事をする上で、大切にしていることは?

仕事をする上で「考える」ということを大事にしています。以前は考えるということを、あまり真剣に考えていませんでした。振り返ってみると、いつも何かのついでに考えていたことが多かったんです。たとえば、お風呂を入りながら、歩きながら。大切なことなのに、ちゃんと向き合って来なかった事に気づいて、考える時間を作る事に決めました。

― その「考える」はどのように進めていくのですか?

「書く」ことです。私は考えることは、書くことではじめていきます。頭の中だけで考えるのはなく、考えたことをどんどんノートに書き出していきます。アイデアが浮かんでノートの上から丁寧に書くことはありません。頭の中で考えをまとめてしまうことより、とにかく書くことを大切にしています。それこそ上からでなくても、下からや、途切れ途切れでも、何かに縛られることなく自由に思いついたまま書いていきます。

― きれいにノートを使っている方も多いですよね、そのために頭の中で整理しながら書いている方も多いと思うのですが。

すでに考えがまとまりつつある時は情報を整理しつつきれいに書くことも大切だと思います。一方ではじめの一歩と言いますか、ゼロから考えはじめる時は「きれいさ」にはこだわりません。あやふやなアイデアをあやふやなままで落とし込んでいきます。プロジェクトや商品を考えるスタートの時に、頭の中で考えているだけだと実はあまり進んでいないということがあります。頭にあることを書くことで、それを見た自分が何かを感じて、またそれを書く。そんな感じで「考える」を進めています。

デスクをコックピット化

― 仕事をする環境はどのようにしているのですか?

以前は、仕事をする時に手帳やペン、メモなどの位置を特に決めていませんでした。そのため何をするにも、いつも探したり選んだりしていました。当然仕事がその都度止まってしまいました。その時に、探すことに無駄な時間を使っていると気づきました。それ以来、自分にとって最もしっくりとくる自然な導線に物を配置して、そこを定位置にすることにしました。するとストレスを感じずスムーズに仕事が流れるようになったんです。
飛行機のコックピットって、適切な位置に操作ボタンや計器が置いてあるじゃないですか、それはたぶん操縦に集中できるようにするためだと思うんです。仕事も運転や操縦に近いと思っていて、それを踏まえてデスクをコックピット化するようにしたんです。
私は右ハンドルの車に乗っていることもあり、いつもは前を見て運転していますが、カーナビを見るたびに視線を左にずらすことにすっかり慣れています。それを活かしてデスクではPCの左に手帳や時計を配置しています。意識しないで見られる視覚的な導線というイメージです。また、仕事をする時に視界に余計なものが入らないようできるだけ余白をつくることも心がけています。「なにもない空間」があることで、今やるべき仕事に没入できるようになります。

気持ちをほぐすアイテム

― 集中する時とリラックスする時は、どうやって分けているのですか?

今までの話だと、ストイックな人間だと思われていますよね(笑)。一方で、ちょっとひと息入れることも大事にしています。むしろしっかり休むことが大事だと思っているので、仕事には直結しないのですが、気持ちをほぐす時間を作っています。休み時間を明確に決めていて、15時から15時半の30分は強制的に休みを入れています。ずっとやっても能率は上がらないので、この時間は何をやってもOK。仕事をする時は、余計なものを目に入れないことで集中力が高まりますが、一方でリラックスしている時はお気に入りのものが目に入ってきた方が、刺激や効果があります。
たとえば、たまにしか使わない気に入ったデザインのアイテムを本棚にディスプレイする。アドラーのハサミの刃先を万年筆用の枕木に置いたり、ブラウンの電卓を白いバットに入れたり。自分の好きな世界観を作る事で、見ていてほっとするんです。

栄養剤としての本

― リラックスするアイテムは、他にどんなものがあるのでしょう?

文字の本ではなく、写真集を本棚に並べて時たまパラパラと眺めています。ディーター・ラムスがデザインしたブラウンの写真集や、書体のヘルベチカの本など。どういう時に見るかというと、忙しい時や自分にいろんな情報が入ってしまってちょっと頭が混乱した時です。見ることで、自分が好きなものを再確認でき原点に立ち返ることができます。言わば、自分を整えるという役割です。

なければ作る

― こういった環境からアイデアが生まれて、仕事に繋がっているのですね。

私は自分を中心にモノを操っていくことを大切にしています。モノに操られるのではなく。そのため市販のものではどうしても馴染めず「こういうものが、あったら良いな」と思うことが度々あります。そうした時は特注したりして作ってしまいます。さすがにペンを作ることは個人では難しいのですが、紙製品だと少ないロットで作ってくれる会社もあります。特注するのに良い時代になりました。また、市販のものと違い、自分用に作ったものはストレスなく使えます。物と自分との距離がグッと近くなってくるイメージがあります。
たとえば、原稿用紙を特注しています。汚い字でも様になるような(笑)。市販の原稿用紙には、直線の枠があります。キッチリとしたマス目だと、ついついきれいに書こうと思ってしまうのですが、私が作ったものは、マス目の線が少しユルユルしていたり、とぎれていたりしています。なぐり書きのきたない文字でも気持ちよく受けとめてくれるマス目なんです。

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ロルバーン ランドスケープについて

― 土橋さんに監修していただいたロルバーン ランドスケープも「こういうものが、あったら良いな」ということで製作したものでしたが、今回のテーマの『心地よく仕事をするための文具・道具』として、土橋さんはどのように活用されていますか?

考える時のホームグラウンドとして、昨年の1月から使い始めてすでに10冊使いました(笑)。今回のテーマを決める時も、ランドスケープで書き出していきました。まずはカテゴリーを決めて、これはここに当てはまるとか。枠を作る事で整理ができ、考えが進みやすくなります。最近は打ち合わせのメモにも分割モードを使っています。紙面を4分割して、時計回りに書いていきます。ひとつひとつのスペースは小さいので、ポイントだけを書くようになって、見返した時にわかりやすいメモになります。

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― 今回ランドスケープに新色がでましたが、色はどのように選んだのですか?

考えるという作業はすべての人がやる事なので、色んな層の人に使っていただきたいと思い、カラーバリエーションを増やしたんです。いままで落ち着いた色の表紙だったので、明るめの色を取り入れたいと思いました。私にしては珍しいピンク色を作りましたが、男性でも持てる落ち着いた色あいです。
「考える」というのは、誰にとってもちょっとしんどい仕事です。ただ、私たちは日々考えて色んなことを決めて過ごしています。考えることを避けて通ることはできません。考える道具をひとつ持つということは、自分の武器をひとつ持った事になります。私は考えることが前よりも楽しくなりました。

土橋正の心地よく仕事をするための文具・道具

開催日  2020/2/26(水)〜3/24(火)
場所   デルフォニックス 渋谷
     東京都渋谷区宇田川町15番1号 渋谷パルコ4F
問合せ  デルフォニックス 渋谷(03-6809-0721)
営業時間 10:00-21:00 ※最終日は19時まで

Rollbahn +とは?

デルフォニックス 渋谷に内設する「ロルバーン ショップ&ギャラリー」と、ロルバーンとの新しい出会いを提供する「ロルバーンエキスポ」の特設サイトが連動。店頭では、さまざまな文化を切り取ったスモールエキシビションを。特設サイトでは、展示内容を小さな記事にしてアーカイブしていきます。

2020.2.13